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夏も終わってすっかり涼しくなりましたね。エアコンを一日中使わなくても快適に過ごせる季節になってきました。 僕は物語が好きです。小説も漫画も映画も好きです(好みはわりと偏ってますが)。それで最近気付いたんですが、自分の好きな物語は夏が舞台なことが本当に多いことに気付きました。夏といってもいろんな夏があります。 僕が好きな夏は、ノリノリでイェー!みたいなものではなくて、 人生の盛り上がりを象徴するような暑い季節に主人公たちのこれまでの半生が開花したようなドラマが生まれ、蝉時雨がやむとともに静寂な日常へ戻っていく感じが好きです。 主人公たちがもう二度とこんな熱い時期を過ごすことがないんだろうな、というような込み入った時期。 そういうようなニュアンスから八月という言葉からは出来事がたくさん込み入った人生で一番熱い時期というイメージがあります。 でも夏が終わっても、秋というすばらしい季節がまだ待っています。 物語の魅力的な世界をなにかしらの方法で自分の私生活にも落とし込めたら素敵だなと思います。 さて、今日は自分の好きな物語を紹介しようと思います。 映画ならデヴィット・フィンチャーの『ゲーム』やベッソンの『グランブルー』が好きですし、漫画なら幽遊白書や吉田秋生のラヴァーズキスが好きですがこれはまた今度紹介しようと思います。 僕が一番好きな小説はポール・オースターの『ムーン・パレス』です。 この小説に出会ったのはまだ高校生だった頃で、アメリカ村の書店で買いました。 書店員が作ったPOPに「俺はこの小説を読まないで青春時代を過ごした大人を信じない」って書かれてあって、そんなにも言わせる物語はどんなものなのだろうと思い読むことに決めました。 ニューヨークが主たる舞台の小説で、母が自動車事故で死に父は生まれたときから行方不明で名前も顔も知らなかった主人公が、たった一人の肉親であり育ててくれた伯父さんを亡くすところから物語は始まります。これも1969年の夏からはじまり、1969年はアポロ探査機が月面に着陸したことにもひっかけて、物語のいたるところに『月』のモチーフが出てきます。ニコラ・テスラの言葉が記されたフォーチュンクッキー(太陽は過去・地球は現在・月は未来である)の言葉が運命的に出てくる、主人公が飢餓状態のとき窓から見えた中華料理屋『ムーンパレス』のネオンサインとそこから得た神性示現。アメリカ西部を描いたブレイクロックの絵画『月光』、主人公の父が記した月の余韻が残る小説内小説… 物語の中にいくつもの出来事が幾重にも重なって、青春真っ盛りのように人生が込み入った様子が描かれているのです。 また著者であるポール・オースターは小説を書く前に詩を書いていたため、ムーン・パレスはとても音楽的で、寓話性の美しさは優れた詩のように感じるかもしれません。 人の人生における運命と偶然の絶妙なバランス。そしてその恐ろしさと美しさが描かれています。 僕はこの小説にすっかり魅せられて、青春時代から先の八年間を生きてきたのでエピソードの一つ一つが自分の骨身にしみてからだの一部となっています。 この小説のことを語り合えたらとても幸せだなあと思います。