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「自閉症スペクトラム」という病は病名の知名度の割には、具体的な症状や、患者さんの苦しみといった部分が認知されていない、何とも不思議な病だと個人的には思っています。本書はそんな、「自閉症スペクトラム」という病はどのような物で、どのような特徴があるのか。そういった点をわかりやすく解説されており、この病を認知する上で非常に参考になる書籍でありました。 まず、自閉症スペクトラムを抱える方の中で社会生活を送る上で最も障壁になるであろう、対人コミュニケーションの部分に関して。定型発達の方は日常的にそれまでの経験から「これはこの場ではしない方がいい」「明文化されていないけど、今はやらない方がいいな」といったいわゆる「暗黙のルール」のようなものを認知する事ができ、それに従って円滑な人間関係を構築していこうとする物ですが、自閉症をお持ちの方々にとってこの「暗黙のルール」という物を認知したり想像することが難しく、それが仇となってしまい、円滑な対人関係を築くことが難しいとされています。しかしながら、自閉症をお持ちの方々はそうしたコミュニケーションを悪気があって行っている訳ではなく、そのような体験が重なることで自己肯定感の喪失につながり、自己肯定感が低下した状態で他の方とのコミュニケーションに挑んでしまうという負のスパイラルに陥ってしまうことは想像に難くないでしょう。 自閉症をお持ちの方々は率先して「この場の空気を壊してやろう」「この人達のペースを崩してやろう」「空気を読まない行動をしよう」と思って行動されている訳ではありません。ご自身たちの持つ特性上、そのような結果になってしまう事もあるという事なのです。ですが、残念ながら今の日本社会においてそうした方々に対する視線はまだまだ厳しいと言わざるを得ません。 これは少し話がずれるかもしれませんが、古来から災害や飢饉に襲われることが多く、島国という事で外界との接触も(他国と比べて)少なかった日本という国においては「団結こそが美徳」「他人との軋轢を生む人間はリスク」という考え方が強く、それは令和になった今の時代でも色濃く残っていると自分は思っています。確かに、団結力がある事は素晴らしく、他人に迷惑を掛けないようにする、という意識は美しいものです。ですが、その意識が強すぎるあまりに、自分達とは違う感覚や意識を持つ人間を排除しようとする流れへと繋がってしまう事も少なくはありません。少なくとも現代の世界では「外国人排斥」や「日本ファースト」という言葉が新聞の一面を飾る様になっていますが、この流れが今後「定型発達とは違う」障害を持つ方々にも飛び火する恐れもあるように思えます。「普通とは違う」という言葉を免罪符にして。 かつてナチス・ドイツはT4計画という「強制的な安楽死計画」を実施しました。かの哲学者、ニーチェが放った「病人や弱者は社会を弱体化させる有害な存在である」という主張が根底に存在する、社会的ダーウィニズムの極致とも言えるその計画が進んだ際に、障害を持つ人たちは「生きるに値しない命」とされ、障害者排除政策を取るナチスの機関紙に掲載されたポスターにはこう記載されていました。 「遺伝性の疾患を持つこの患者は、その生涯に渡って国に6万ライヒスマルク(今の日本円換算で8400万円)の負担を掛けることになる。ドイツ市民よ、これは皆さんが払う金なのだ」 昨今の日本において「発達障害や精神疾患は存在せず、医療利権がらみの陰謀」という考えがじわじわと広まっており、そうした考えを支持する人の中には「障害者は生産性が無いので、処分した方がいい」という事を平気で言い放つ人なども見られます。「人に迷惑をかけてはならない」「暗黙のルールを守らねばらならない」という考えが行き過ぎた社会を想像した際に、今からたった80年前にドイツで起きた悲劇を想起するのは僕だけでしょうか。 現代は「多様性」が叫ばれて久しいですが、今後はジェンダーなどの分野に留まらず、福祉医療の世界、ひいては就業の世界においても「多様性」という考えが、表面的な物ではなく実質的な理解を伴う物として加速的に進んでいく事が必要なのではないでしょうか。 話を本書に戻します。 本書では自閉症をお持ちの方の生きづらさだけではなく、そうした方々をどのように支援していくのかに関しても記載されていました。その中で重要だと感じたのは「出来ない事を出来る様に支援するよりも、その人の得意な事を伸ばすような支援が重要である」と書かれており、これは自閉症をお持ちの方と関わる上で非常に重要なのかもしれないと感じました。それは、その人の出来ることを褒めて伸ばす事で上述した「自己肯定感の無さに帰来する負のスパイラル」からの脱却が図れるのではないかという考えからです。ご自身のソーシャルスキルを磨いていただきながら、苦手な事や出来なかった事にも言及しつつ、大まかな方向性としてはその人の特性を観察して得意なスキルを伸ばして頂く。その様な支援がおこなえるようになれればと本書を読みながら感じていました。 なんだか書籍に対する感想、というよりかは現在の障害者の方々を取り巻く日本社会に対する感想になってしまいましたね。 長文の投稿、大変失礼いたしました。