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先日の8月6日におこなわれた「生活困窮者全国ネットワーク自立就労委員会」が主催する「就労支援部会自立就労委員会」に参加させていただきました。
今回の委員会におけるテーマは「障害者雇用ビジネスについて」
これを読まれている方の中にはもしかしたら「障害者雇用ビジネス」とは何ぞや、という方もいるかもしれません。かくいう僕も、正直な話をしますと恥ずかしながら今まで福祉の現場に入って「障害者雇用ビジネス」という言葉は聞いたことがあるけど......というぐらいの印象を持っていた、といった感じでした。しかしながら今回、障害者雇用ビジネスという物を詳しく聞いて「こんな事がこの国で許されているのか」と改めて愕然とする思いでした。
まず、「障害者雇用ビジネス」とは正確に言うと「障害者雇用代行ビジネス」といい、共同通信が2023年に発信した記事に書かれた言葉です。
まず、一般企業が障害者雇用で障害者を雇用した後に、契約している農園などにその方を派遣することで「障害者雇用をしている体」で実際にはその企業の業種とは全く関係のない農園で作業をしてもらうという形態のこのビジネスは共同通信によりスクープされたのち、福祉関係者に多大なる衝撃を与えました。
雇用された企業の業種ではないにしても、「農園で働く」と言えば一見素晴らしいものに見えるかもしれません。ですがその実態は「農園作業」と銘打ちながら採光栽培など、ほとんど人間の手がかからない栽培方法を採用しており、そうした農園に「就職」した人々は殆ど何もすることがなく、ただ在籍しているだけといった状態になることがほとんどです。そうした場所に就職した人は最初は「いい職場に来たかも......」という感想を抱くことでしょう。何せ、ほとんど労働しなくても、何なら職場に来ようが来るまいが安定した雇用を受けられ、社会保障や給与も保障されるという環境なのですから。ですが、人間という生き物はそう単純ではありません。今回の委員会で印象に残ったお話がありました。
それは就労移行事業所からそうした代行サービスが運営する農園に就職された方の事例でした。当初は意気揚々と職務に励んでいたその人はある日を境にどんどんと元気がなくなっていったといいます。その理由はずばり「働いても働かなくても、農園に来ても来なくても何も変わらないからモチベーションが保てない」という物でした。
これは福祉に関わる話というよりももっと根源的な「人間はなぜ社会に出て働くのか」という疑問に対する一種のアンサーのように感じられます。人はなぜ働くのかと問いに関しては、古来から様々な回答が示されてきましたが、その中でも多くの方が共通して感じている認識として、「自己実現を達成したい」「他の人の役に立ちたい」という物があるでしょう。あるいは、職場で活躍することで「自分の価値を認めてほしい」と思う方もいるかもしれません。ですが、今回の代行サービスで農園に派遣された人々は前述したような欲求を全く果たせない環境に放り込まれているのです。実際に日本財団の補助金を受けて作られた研究グループの研究結果によると、農園などで働く障害者91人とビジネス事業者7社、利用企業23社にアンケートや聞き取り調査をした結果、利用企業自体はこのサービスに「とても満足していると思う」との回答が56.5%でしたが、当事者の回答からすると17.6%にとどまったと言います。逆に、当事者の25.3%はこのサービスに「不満」と答えたのに対し、そう認識している利用企業は0%でした。また、「利用企業の社員としての実感がある」と答えた人は半数強にとどまっている状況で、所属意識や就労しているという実感がないまま、何もわからずに農園で働き続けている、といった利用者の存在が浮き彫りになった研究結果のように思われます。
障害者の代行サービスという物に関して詳しく話を聞いていくうちに、自分の中では「このサービスは実際に働く障害者の事を全く考慮していないのでは」という認識が強くなりました。実際に、このサービスに関しては国内でも賛否両論で、もっと規制すべきではという声も多いようです。中には、実際に代行ビジネスをおこなっている業者の意見もあり、そうした物の中には「代行ビジネスとひとくくりしないでほしい。農作物は放っておいて勝手に育つものではなく、実際に作業を細分化してマニュアル化したものを利用者に提供したり、重労働や草を取り除く細かい作業もある」とのことで、幾分かは単純作業ではない就労機会を提供しているとするものや、実際に共同通信に名指しで批判された農園も「当社の実態から大きく乖離している」「障害者雇用へ取り組む企業へ一方的な見解を押し付ける物だ」という声明を発表しているようです。
確かに、障害者の方の雇用に関するノウハウを持たない企業や、障害者の雇用に注力できない企業が法定雇用率を達成できるというメリットはあるのかもしれません。「どこにも働くことができないより、こうした農園でも働ける方がいいのだ」という声もあるでしょう。それを肯定するかはともかく、そういった意見があることは事実ではあると思います。しかしながら、そこには実際に働く人たちの意思や今後の未来という物に関する思考は存在しているのでしょうか。そうしたサービスが本当に利用者に寄り添った福祉や就労機会を提供できているのでしょうか。以前に小野寺顧問が15周年イベントで講演されていた際に「これからは雇用率だけではなく、雇用の質にもこだわらなければならない」とお話をされていましたが、今回の委員会における話や様々な記事を読んで、まさしくその事の重要性を再認識した次第です。
【参考文献】
障害者.com「貸農園ビジネス、急に批判の的となる」
2023年4月11日 https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=2729
東洋経済オンライン「障害者「農園就労」大手エスプールが批判に答えた「雇用率を金で売る代行ビジネス」との非難も」
2024年12月8日 https://toyokeizai.net/articles/-/843702
HRpro「障がい者雇用ビジネス」とは? サービスの仕組みと利用実態を解説【前編】
2023年8月13日 https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=3190
47NEWS「障害者の雇用「代行ビジネス」は是か非か、専門家たちが出した結論は?「働く場を提供」でも「社員という実感はない」」
2024年4月13日 https://www.47news.jp/10785398.html