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2024年12月20日・21日に開催された「就労支援フォーラムNIPPON 2025」の分科会「THE BEST(就労移行支援)」に登壇させていただきました。
私からは、「なぜ地方から就労移行支援事業所がなくなったのか ~移行できないのは当事者のせいではない~」というテーマで、重度知的障害と自閉症スペクトラムのあるタロウさん(仮名)の支援事例を通じて、就労移行支援の可能性と課題についてお話ししました。
当日は多くの方にご参加いただき、質問フォームを通じてたくさんのご質問をいただきました。時間の関係でお答えできなかった質問もありましたので、この場で回答させていただきます。
Q
①地方では就労移行が減り、A型やB型が増えています。企業就職に向けて、就労移行ではなく、就労継続からのステップが主流になりつつあります。就労移行の生き残りのために選ばれる事業所になるため取り組んでいることを教えてください。
②訓練、トレーニング、チカラをつけて就職から、強みをいかした就職(マッチング就職)が主流になりつつあります。しかし、就労移行の強みはアセスメントをもとに訓練(トレーニング)、学びの機会、企業での実践を通してチカラをつける、自己理解を深めて就職だと思っています。濱田さんは、就労移行の考え方、どのように思われますか?
A
①選ばれる事業所になるために取り組んでいること
地方に就労移行支援事業所を増やし、継続していくためには、地域の関係機関とのネットワークの中で支援を作り上げていくことが大切だと考えています。学校、福祉施設、企業などと繋がり、地域のニーズを知ること。必要とされる就労移行支援でなければ継続していくことはできません。
そして、地域のニーズを待つのではなく、こちらから出向いて繋がり、ニーズをキャッチする。そのニーズの変化を反映させる。この姿勢が選ばれる事業所には必要だと考えています。
②就労移行の考え方について
ご質問の意図を、「最近は『訓練して力をつける』よりも『強みに合う企業にマッチングする』方が主流になっているが、訓練を通じて力をつけるプロセスこそが就労移行の強みではないか」という問いかけとして受け取りました。
私は、「訓練で力をつける」と「マッチング」は対立するものではなく、両方が必要だと考えています。
ただ、雇用率の急速な上昇に伴って、雇用が先走っているような状況もあると感じています。そのため、クロスジョブでは「長く働き続ける」ことの大切さを、インテークの段階から本人やご家族に伝える工夫をしています。アセスメントを通じて本人の強みを発掘し、訓練で力をつけ、その強みが活かせる企業とマッチングする。このプロセス全体が就労移行の強みだと考えています。
Q
地方から就労移行支援がなくなり、都市部で増えている傾向があるのかなと感じました。地方との格差が広がっているとすれば、国策として方向転換が必要では。
地方でも持続可能なためには何か必要な条件や改善できる点があるとすればなんでしょうか?
A
ご指摘の通り、地方から就労移行支援事業所がなくなり、都市部に集中している傾向があります。登壇でもお話ししましたが、これは当事者のせいではなく、制度と社会の構造的な問題だと考えています。
<国策としての方向転換について>
登壇で提言した内容ですが、障害支援区分による基本報酬体系の見直しが必要だと考えています。
現在の報酬体系では、障害支援区分による報酬差がほとんどありません。タロウさんの事例でお話しした通り、重度の方を支援するには通常の6倍、就職後は17.5倍の支援量が必要です。費やすお金に差があるのに、入ってくるお金に差がない。これが、地方で就労移行支援が拡大しない理由だと考えています。
国は令和6年度の報酬改定で、定員10名でも開設できるよう緩和しましたが、それだけでは地方に拡大していません。報酬体系の見直しがあって初めて、地方でも就労移行支援を持続可能な形で運営できると考えています。
国の労働施策も週10時間雇用が始まったように、働きづらい方々を雇用することが急務になっています。地方には、都会まで行けない働きづらい方々がたくさんいます。そうした方々が就労移行支援を利用できるようにするために、何が必要か。
<地方でも持続可能なために必要な条件>
制度面の改善に加えて、事業所側の取り組みも必要だと考えています。
1つ目は、地域の関係機関とのネットワークです。学校、福祉施設、企業などと繋がり、地域のニーズを知ること。地域のニーズを待つのではなく、こちらから出向いて繋がり、ニーズをキャッチする。必要とされる就労移行支援でなければ継続していくことはできません。
2つ目は、専門性の確保です。構造化支援などの専門技術を地方にも普及させること。研修体制の整備やノウハウの共有が必要です。
3つ目は、社会認識の変革です。「就労移行支援は都市部にある」「ハードルが高い」「障害が重い方には現実味がない」という認識を変えていく必要があります。タロウさんのような実践を「当たり前」にしていくことで、この認識は変わっていくと考えています。
Q
事業所内で、「この方は就労は難しいね」「B型が合っているのでは」と、日々の疲弊感からだんだんとなってきてしまうことがあります。施設長の役割が大きいとも思いますが、どのようにスタッフの育成や方向修正をしておられますか?
A
正直に申し上げると、私自身もタロウさんと出会う前は、「この方は難しいのではないか」と感じてしまうことがありました。日々の支援の中で疲弊感が生まれ、そういった見立てになってしまう気持ちはよくわかります。
ただ、タロウさんの支援を通じて、その認識が変わりました。登壇のテーマにもした「移行できないのは当事者のせいではない」という言葉は、支援者である私自身への問いかけでもあります。
クロスジョブでは、そもそもそういった思考が生じにくい環境をつくるために、多機能ではなく就労移行支援事業のみを行っています。「B型が合っているのでは」という選択肢が事業所内にないことで、支援者は「どうすれば一般就労につなげられるか」という方向に意識を向けやすくなります。
また、法人理念に「日々の支援を振り返り高めあう」という言葉があります。「この方は難しい」という見立てが出てきたときに、「では、どんな支援があれば可能性が広がるか」という問いに転換することを意識しています。
タロウさんの支援も決して順調ではありませんでした。それでも諦めずに続けられたのは、日々の支援を振り返り、チームで改善を重ねていく姿勢があったからです。一人で抱え込むのではなく、チームで振り返り、一緒に考える。その中で「この方の可能性は何か」という視点に立ち返ることができると思います。
また、地方には「働けるのに周りが『働けない』と決めつけてしまう構造的問題がある」とも感じています。これは支援者個人の問題ではなく、制度や社会の構造的な問題でもあります。支援者が疲弊してしまう環境自体を変えていく必要があると考えています。
Q
タロウさんの支援プロセスについてです。
支援方針の「3つの柱」についてご説明の際、専門家から助言をいただきながら支援を行ったとお話しされていましたが、
具体的にどのタイミングで、どの専門家から助言をいただいたのかを教えていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
A
タロウさんの支援では、困った場面があった際に、自閉症支援の専門家に相談をしていました。その方は、タロウさんの幼少期から専門療育を行ってこられた方です。
タロウさんが幼少期から積み重ねてきた構造化支援の経験や、本人の特性を深く理解されている方だったので、私たちが支援の中で壁にぶつかったときに、具体的なアドバイスをいただくことができました。
例えば、構造化支援の環境設定や、本人への伝え方、関わり方など、タロウさんの特性に合わせた支援の方向性を一緒に考えていただきました。また、トイレの支援など生活面のサポートについても実際に関わっていただき、多くの学びを得ました。
このように、本人をよく知る専門家と連携することで、就労移行支援の現場だけでは気づけない視点を得ることができました。外部の専門家との連携は、支援の質を高める上で非常に重要だと感じています。
Q
タロウさんの採用会社、採用のもっとも大きな理由は何でしたか?同じ会社で継続的に採用は続いていますか?
A
採用の最も大きな理由は、「自分たちの時間の余裕がなくできていない業務をやってくれる」「毎日休むことなく来てくれる」という点だったと聞いています。
登壇でもお話ししましたが、企業開拓の際に「やらないといけないけど、できていない仕事」を企業と協働で切り出し、タロウさんが担える形に整えていきました。その業務を毎日安定してこなしてくれることが、企業にとっての戦力になっているのだと思います。
また、同じ会社で採用は継続しており、時間延長にもつながりました。企業からは「重度の方でも戦力になることを実感した」「配慮が必要だと思っていたことが、無意識な決めつけだった」という声をいただいています。
タロウさんが毎日安定して働き、戦力として認められたことで、企業側の認識が変わり、さらなる雇用の拡大につながっている。これは、就労移行支援が目指すべき一つの形だと考えています。